第14回 動機づけと自己制御
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目標 & ポイント
1. 動機づけに関するケラーのARCSモデルについて理解する
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2. 自己制御について理解する
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3. インストラクショナル・デザインの位置づけについて理解する
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1. 動機づけ
ケラー(J. M. Keller)のARCSモデル
eラーニングの動機づけで参照されることが多い
『学習意欲をデザインする』(Keller, 2009; Keller, 2010)
インストラクショナル・デザインの実践者向けに、心理学における動機づけに関連する理論を評価してARCSモデルを提唱した
遠近法主義者(perspectivalist)の立場をとっている
あらゆる認識は認識する主体のパースペクティブ(遠近法)に制約されている
ケラーは動機づけ研究をレビューし、
動機づけの概念を4つに分類(ARCSは頭文字)
注意(attention)
定義: 学習者の関心を捉える、学習する好奇心を刺激する
プロセス質問: どのようにしたらこの学習経験を刺激的でおもしろくすることができるだろうか?
関連性(relevance)
定義: 学習者の肯定的な態度を引き起こすように、個人的なニーズや目的を満たす
プロセス質問: どのようなやり方で、この学習経験を学習者にとって価値あるものにできるだろうか?
自信(confidence)
定義: 学習者が成功してそして自分の成功を統制するということを、学習者が信じ感じ取ることを助ける
プロセス質問: どのようにしたら、教育によって、学習者が成功するのを助けたり、自分の成功を統制することができるようにしてあげることができるだろうか?
満足感(satisfaction)
定義: 達成を(内的と外的)報酬によって強化する
プロセス質問: 学習者がその経験に満足し、学習を続けようと望むようになるために、何をすることができるだろうか?
プロセス質問
要因ごとに学習への動機づけを高め維持させるための方略を生み出すための質問
4つの要因について関連する心理学理論とそれぞれの下位分類を紹介
注意
どのようにして学習者の注意を喚起し持続させるか
注意に関する心理学理論
反射、好奇心、刺激追求という人間の本性が関連して、注意の覚醒や持続に影響を及ぼす
ヤーキス・ドットソンの法則
適度の覚醒の時が最も学習効果が高い
覚醒理論
逆U字曲線で示される
バーラインの知的好奇心の理論
フロムやユングの退屈に関する論考
注意に関する下位分類・プロセス質問・支援戦略
A1 知覚的覚醒
彼らの興味を捉えるために何ができるか?
新奇なアプローチを使って、個人的または感情的材料を挟み込んで、好奇心と驚嘆を生み出す
A2 探求の覚醒
どのように探求する態度を刺激することができるか?
質問をし、矛盾を引き起こし、探求を行わせ、挑戦を考えることを育むことで、好奇心を増す
A3 変化性
どのようにしたら彼らの注意を維持することができるのか?
発表スタイル、具体的な類推、人間的興味をひく事例、予測しない出来事において変化性をつけることにより、興味を維持する
関連性
どのようにして学習者のニーズや目的を満たすか
関連性に関する心理学理論
関連性は、行動の目的に直接関連しているので、動機づけの中で最も強力な要因
ジェームズやマクドゥーガルの本能についての理論
トルーマンの目的的行動についての理論
クルト・レヴィンの場の理論
マズローの欲求の階層構造についての理論
マズローの欲求の5段階説
マクレランドの達成・親和・権力についての理論
デシによる内発的動機づけの理論
チクセントミハイによるフローの考え方
関連性に関する下位分類・プロセス質問・支援戦略
R1 目的指向性
どのように、学習者のニーズに最もうまく応えることができるか?
学習者のニーズを知っているか?
この教育プログラムが役に立つという記述や事例を提供し、ゴールを提示するか、あるいは学習者にゴールを定義させる
R2 動機との一致
どのようにして、いつ、私の教育プログラムと学習者の学習スタイルや個人的興味とを結びつけることができるか?
個人の達成機械や、協力的活動、リーダーシップの責任、肯定的なロールモデルを提供することにより、教育プログラムを学習者の動機や価値に対応するものにする
R3 親しみやすさ
どのようにして、教育プログラムと学習者の経験を結びつけることができるか?
学習者の仕事や背景と関連のある具体例や類推を提供することにより、材料や概念を親しみやすいものにする
自信
どのようにして学習者の成功を統制するか
自信に関する心理学理論
自分の行動とその成功との関連づけ、つまり、自己行動の統制と成功の帰属については心理学においてたくさんの理論がある
ロッターの統制の位置の理論
ド・シャームの指し手とコマ理論あるいは自己決定感の理論
バンデューラの自己効力感の理論
ワイナーによる原因帰属理論
セリグマンによる学習された無力感と学習された楽観主義の考え方
学習性無力感
ローゼンサールの自己達成予言の考え方
自信に関する下位分類・プロセス質問・支援戦略
C1 学習要求
どのように成功に関する肯定的な期待を持てるように支援することができるか?
成功とみなすための要求事項と評価基準を説明することによって肯定的な期待感と信頼を得る
C2 成功の機会
どのように学習経験が彼らの能力についての信念を支援または拡張することができるか?
学習の成功を増やすような、多くの、多様な、挑戦的な経験を提供することによって、自分の能力への信念を高める
C3 個人的な統制
学習者はどうしたら自分の成功が自分自身の努力と能力とに明確に基づくものだと知るのだろうか?
(可能なときはいつでも)個人的な統制を提供する技法を用い、成功を個人の努力に帰属するフィードバックを提供する
満足感
どのようにして学習者の達成を内的および外的な報酬によって強化するか
満足感に関する心理学理論
行動主義に基づく条件づけの理論
古典的条件づけ
オペラント条件づけ
トークンエコノミーの理論
これらは外発的動機づけの考え方
フェスティンガーの認知的不協和理論
ハイダーのバランス理論
アダムスの公平理論
満足感に関する下位分類・プロセス質問・支援戦略
S1 内発的な強化
どうしたら学習経験に関する彼らの内発的な楽しみを推奨し、支援できるだろうか?
個人的な努力と達成に対する肯定的な気持ちを強化するようなフィードバックと他の情報を提供する
S2 外発的な報酬
何が、学習者の成功に対して報酬を与える結果を提供するのだろうか?
褒め言葉、本当のまたは象徴的な報酬、及び動因を使うか、または学習者に努力の結果を示させて(見せるか話して)成功に報いるようにさせる
S3 公平
公平な処遇だったことを学習者に認識させるために何ができるだろうか?
パフォーマンス要求をあらかじめ述べた期待と一貫させて、すべての学習者の課題と達成に対して一貫した測定基準を使用する
ARCSモデルは、e-ラーニングに特化したインストラクショナル・デザインにしか適用できないわけではない
通常の対面での授業設計にも十分に活用することができる
教材の魅力を高める作戦:ARCSモデルに基づくヒント集(鈴木, 2002)
授業場面に限らず、読者の日常生活や職場の様々な場面で、ARCSモデルを具体的に活かすための参考にもなる
2. インストラクショナル・デザインについて
学習科学
教授学習過程の相互作用を含めた総体が研究対象
教授する過程と学習する過程
インストラクショナル・デザイン(instructional design)
教授(instruction)の仕方を設計(design)する
課題分析
教授する内容について、学習者の既有知識から出発して、どのような下位の内容があり、最終的に目標に達成するかを分析する
下位の内容をどのような順番で、どのようなメディアを利用して享受するかを具体的に設計していく
instructionには教示という概念もある
教示とは研究における操作化の一部であり、最も本質的な部分
人間を対象とした研究では、実験協力者に対して教示を行わない限りは研究を行うことはできない
教示とはインストラクショナル・デザインと同義であると捉えることができる
行動分析学上の立場からの研究もなされている(たとえば, 島宗, 2004など)
インストラクションは教示であり、言語行動であるので、日常生活のあらゆる場面にも応用可能
応用行動分析学という研究領域にまとめられるに至っている(たとえば, 島宗, 2019など)
3. 自己調整学習
第13回 マルチメディア学習
これからのeラーニングには自分の学習に主体的に取り組み、責任を持つ覚悟が必要であるという主張があった
この主張に正面から取り組んでいるのが自己調整学習の考え方
ケラーでも触れられている
自己調整学習
学習者が自分の学習過程において、自分の学習状況を把握し(セルフ・モニタリング)、自分の学習を制御する(セルフ・コントロール)こと
ジマーマン・シャンク(2006)は、自己調整学習の理論として7つをあげている
伊藤, 2009
自己調整学習の構成要素の1つとして学習方略に着目
学習における行動面と認知面との両方を含む概念
教育心理学における類似概念
学習習慣
学習場面において繰り返し自動的にとられる行動
学習スキルも具体的な行動面を指すが、学習習慣はむしろ学習に向かう姿勢を取り上げている
学習スキル
学習スタイル
が学習方略が場面を越えて一貫してとらえる傾向
自己調整学習方略という言い方も現れている
認知心理学の隆盛にともない研究も増加し、学習という情報処理の効率化やメタ認知的な監視や方向づけという点
学習方略について、カテゴリーを分けて紹介
認知的側面を重視したカテゴリー
認知的方略
外的リソース方略
メタ認知的方略
自己プランニング・自己モニタリングを含む学習方略
リソース管理方略
精緻化方略
イメージ化方略
動機づけ側面を重視したカテゴリー
情緒的・動機づけ方略
社会的・情意的方略
認知・感情・動機づけ・課題状況・課題場面における他者のコントロール
努力調整方略
これらの動機づけ的側面を含めたものは、方略そのものというよりも、認知的過程に影響を与える要因として組み込まれていたり、周辺的、補助的な位置づけで列挙されていたりしている
4. eラーニングをめぐって
佐藤・井上, 2008
メディアの社会学の観点から通信教育を扱った興味深い著作
通信教育が社会関係資本にどのような影響を及ぼすか
結論: メディアは文化細分のための装置に過ぎない、メディアによって文化が結合されることはない
eラーニングにおいても同様であり、一人で学習するのはきわめて困難で、対人的相互作用がやはり重要であることが再認識されている
本章で扱ったのはあくまでも教育方法において学習者の動機づけをどのようにして高め維持していくか
単に教育方法として問題を解決するには限界があり、たとえば教育におけるサポートシステムを教員や教育組織として取り組むことが大切
放送大学においても、全国にある学習センターの役割は重要
このことは単に一大学組織の問題にとどまらず、地域や国家として学習者を支援する仕組みが必要であるということ
学習すること学問することは、楽しいことであり有意味なことであり意義深いことである、という共通認識を構築することから検討を始めたい
自己制御という観点からは、学習すること自体、自己決定するものだということ
→第15回 言語習得